【書評】【読書レビュー】How Google Works「破壊的イノベーションをもたらすGoogle社内の仕組みと考え方を知る本」

SPONSORED LINK

『How Google Works』をKindleで購入。読了したので読書レビューを上げる。

How Google Works

How Google Works

posted with amazlet at 16.11.26
日本経済新聞出版社 (2014-10-17)
売り上げランキング: 2,238
NHKスペシャル“グーグル革命の衝撃”あなたの人生を検索が変える [DVD]
ポニーキャニオン (2007-09-19)
売り上げランキング: 88,841

SPONSORED LINK

グーグル革命の衝撃の記憶

2000年頃、Googleは当時既に検索サービスのファーストチョイスになっておりGoogleはそれから検索以外にも手を広げYoutube買収、Googleアース、Googleマップ、モバイルOSのアンドロイドと矢継ぎ早に先進的なサービスをリリースし続けている。
当時はなかったナレッジグラフもGoogleインスタントも今では普通のものとなっている。
アドワーズも、最初は検索結果の右端に検索連動広告が表示されていたが、今は右端にはなくなり、検索結果のトップに「広告」としてシンプルに表示されるように改良されている。

2007年にはNHKで「グーグル革命の衝撃 〜あなたの人生を“検索”が変える〜」が放送された。世界に衝撃を与え続けるGoogleという会社やサービスを巡る内容を視聴者にも届けた。

ブリンとペイジのエピソード本でなくシュミットとローゼンバーグ視点の経営者本

本の内容について、最初にこの本はGoogleの創業者セルゲイ・ブリンとラリー・ペイジが中心ではない。CEOのエリック・シュミットとプロダクト責任者ジョナサン・ローゼンバーグ、Google社員のアラン・イーグルの三人が執筆者となり、彼らの視点からみたGoogleという企業の経営について書かれているものだ。外部から来たシュミットやジョナサンから見て、Googleがどのような(型破りの)考え方の会社なのか。Googleがインターネット黎明期から、どのような市場戦略で動き、(爆発的な)成長を遂げたのかが記されている。

特に当時大手IT会社エキサイト・アット・ホーム(Excite@Home)からGoogleに採用され、部門の改革を意気込んだ就任当初のローゼンバーグから見て、Googleの社風や考え方は相当奇妙なものだったことが語られる。創業当時のアカデミックな雰囲気を持ち込んだGoogleは、歴史上これまで存在しないほどの速度で成長する破壊的なほどオープンで従来の会社の常識が通用しない先鋭的で技術者偏重であった。普通の企業人だったローゼンバーグの考え方は通用せず、意気込んだ最初の仕事であるプロダクト計画の策定もラリー・ペイジにあっさり否定される。

シュミットとローゼンバーグの二人は技術的なキャリアの背景もあるが、この本ではGoogleサービスの技術的なコア部分についてほとんど触れられていない。
サービスを中止にした考えや背景については書かれており例えば日本でも人気のあったGoogleリーダーを廃止した理由などもシンプルだが説明されている。

Googleの面接

『How Google Works』では社員をどのように採用し扱うかについても詳細に触れられている。むしろ、サービスや技術そのものよりも社員の扱いについての方がウェイトが大きいかも知れない。
Googleが「スマート・クリエイティブ」と呼ぶ技術者、知的労働者は単なる社員の存在を超えており、21世紀型知識労働者の新しいモデルとなっているが、それと現在のIT企業の多くの実態は乖離している。
Googleは最も重要視しているのはプロダクトでありサービスでありそれを使うユーザだが、それを生み出す技術者、スマート・クリエイティブをどのように確保するかについてもかなり気を配っている。

Googleでも通常企業と同様、雇用の際には面接が実施される。Googleの面接はそのサービスの技術的な背景同様、複雑だと捉えられがちだが、この本ではむしろ、Googleの考え方は普遍的なものだと感じられる。歪なのは会社の中の歪んだ慣習や体制によって曲げられた考え方で、Googleではそういったものを基本的には全て否定している。会社の中で当然とされることを否定することが如何に難しいか、会社に勤めた経験がある人はよく知っていると思う。
なお、Googleの人事制度についてはこの本ではほとんど触れられず、Google人事管理責任者のラズロ・ボックの著書が紹介されるに留まる。

Google人事管理責任者の本

ワーク・ルールズ!―君の生き方とリーダーシップを変える
東洋経済新報社 (2015-07-30)
売り上げランキング: 102

カバのいうことは聞くなの憂鬱

個人的には、「カバ(HIPPO)のいうことは聞くな」「独立採算にしない」の章辺りから、読んでいてどんどん憂鬱になっていった。
「カバ(HIPPO)のいうことは聞くな」では社内の経営層や上層部、いわゆる「社内のエライさん」への対応が記されている。
ここからはフィクションとして書くが、筆者はある時は社員として、ある時は共同作業者として企業のITと関わってきた。協業したある国内大手企業では大企業の弊害がもろに出ていた。
インフラ企業の工程管理ソフトをクラウド型にリプレースする数億円規模の巨大プロジェクトで、プロジェクトマネージャ(PM)が、系列傘下の企業から集められた技術者を部下に働かせていた。筆者はたまたま話を頂いて技術者の一人として参画していた。但し開発ではなく別のプロジェクトのネットワーク系アプライアンスの要員として同じプロジェクトルームで仕事していた。

PMは以前ソフトの開発に携わっていて仕様をある程度知っていたため現場の指揮を任されていたが彼は怒りと恐怖を撒き散らすことで系列の技術者を支配していた。
社内から人材を持ってこず系列企業から集めたのは、PMが扱いやすいという事情があったのだろう。社内からそのような扱いをするとPMに批判が出るだろうが、系列傘下の企業の人間であれば状況を隠蔽しやすいからだ。

そのPMの上司の課長は現場に全くと言っていいほど現れず、状況も分かっていなかったが、定例会議では自身の存在意義だけのために見当違いな工程や仕様に関する質問をして威厳を保とうとしていた。

何が起きているのか、よくわかっていない、”一番エライ人”は、威圧的な態度をとることで主張を通そうとする。責任ある立場に就いたものの、その職務に圧倒されているような状況では、「つべこべ言わずにオレの言うことを聞け!」と言ってしまったほうが簡単だ。
引用元:How Google Works「カバ(HIPPO)のいうことは聞くな」

能力主義は意思決定の質を高めるだけでなく、すべての従業員が自分は大切にされ、大きな権限を与えられていると感じられる環境をつくりだす。オフィスのカバがのさばる、恐怖に支配された、陰鬱でどんよりした文化を打ち砕く。
引用元:How Google Works「カバ(HIPPO)のいうことは聞くな」

その職場は1匹のオフィスのカバは何が起きているのかは分かっていて、主に問題は彼自身にあったが、恐怖で支配した陰鬱でどんよりした文化の元凶となっていた。
もう1匹のカバは彼の上司の課長でありプロジェクトに全く技術的、仕様的な知識もなく参加し見当違いな発言をして混乱を撒き散らしPMは彼の要求を実現せんと更におかしな方にプロジェクトが向かっていった。

筆者のネットワーク系アプライアンスもPMが権限を握っていて客先の仕様をPMが鵜呑みにした結果実現不可能な事が判明し筆者はその尻拭いを丸投げされた。
本来仕様を持ち帰り社内で技術検討し出来なければ代替案を提示しなければならなかったがそういう動きをしなかった。
彼の指示で製品の開発部署に連絡をしたが、担当者をたらい回しにされた挙句何も解決せず筆者もPMから怒鳴られる日々が続いた。
結局ネットでたまたま拾ったあるツールを実装すると要望を実現出来たため、顧客に説明し、ツールの出自はともかくプロトタイプとして勘弁してもらうことで切り抜けることが出来た。
PMの能力と人間性が協業出来る許容の範囲ではないためプロトタイプの完成を持ってプロジェクトは離脱した。

クラウドソフトの状況も酷く、系列傘下の人間をまとめていたリーダーはPMからの理不尽な要求や繰り返される叱責に耐えかねてプロジェクトを離任した。
PM自身もプロジェクトが進むに連れ、クラウドソフトの顧客先に管理能力と職務態度を疑問視され離任には至らずとも脇に追いやられた。
代わりに別のPMが着任して事態の収拾を図ったということがあった。

また、その組織では独立採算制を採っていたが、課長やPMには自分の部署はという意識しかなく、他部署へは同じ会社とは思えないような非協力的な態度しかなかった。
この辺りも「独立採算にしない」でその弊害が触れられている通りだった。

「俺ルール」の一例としてのHow Google Works

ただ、そうした事もあるが、この本を読むに当たり「Googleは先進的で素晴らしい会社だ。それに比べて自分の会社の環境はどんなに酷いのか」と単にGoogleと自分を比較し嘆くだけではなく、もっと別の視点を持つ必要を感じた。(嘆く向きのある人は多いと思うが。)
この本が指摘し示唆するのは、企業というものが経営者やそこで働く人間がどう考えるかによって決定付けられるものであり、初めから決まっていること、これが絶対に正しいというものは初めから存在しないということだ。

日本企業の閉鎖的な、固定観念に固まったような企業内部での考え方、それが正しいと信じてきた社員の考え方が、必ずしも全てではなく、Googleのような破壊的イノベーティブに突き進む企業のやり方もあるということがこの本で提示されるものだ。
結局何のためにどのように働くかは、働く人間自身が決めるものだということだ。
Googleの彼らは信念を持ってユーザにプロダクトとサービスを提供しようとしている。

筆者は会社を離れて個人事業になったが、社内で正しいという認識で通っていることが、社外の人間になると全く正しくも必要でも何でもないことが分かる。
会社では「そういう風にやることになっているからそうするのが正しい」「上司やほかの部署からこういう指示が来ているからそうするのが正しい」と言われる。
例えば特に何を決めるわけでもない定例会議や稟議書での承認ルール、分単位でプロジェクトに携わった工程時間を出す勤務時間の計算、席の決定や移動に関する社内ルール、文書の指定フォーマット、使用を強制されるツール、逆に使用を認められずダウンロードすら許可されないツール、有用な情報のあるサイトでもセキュリティの名の下にプロキシで弾かれ閲覧が許可されない等々。
全て経営者や社内の誰かが自分の都合のいいため考え出した「俺ルール」であり、社外の人間にはどうでもいい事ばかりだ。
会社を離れてその事を強く感じたが、『How Google Works』を読むと同じような視野が得られるだろう。

興味深いトピック

誰にとっても興味深いトピックについては箇条書きで記しておく。
詳細は実際に購入して読んでもらいたい。

  • 章「意思決定 「コンセンサス」の本当の意味」
    2009年にGoogleが中国からのハッキングにあった時の社内の様子と対処
  • 章「イノベーション 原始スープを生み出せ」
    iOSとアンドロイドの対立の詳細(スティーブ・ジョブズ)

お勧めできる読者・向いていない読者

Googleに関して興味のある人には勿論、企業の経営者やリーダーは読むべきだろう。
本の内容は、今会社を経営している人やこれからベンチャーを立ち上げようとする若手経営者に向けて書かれたような体裁になっている。

普通の会社員でも、組織論として、21世紀型サービスの考え方について、天才的な技術者集団を集めた世界の最先端を行く企業がどのような考え方で企業を経営しているのか、あるいは危機に臨んでどのように対処しているのかといったトピックは大いに刺激になるだろう。

学生の人には、経営者層が面接や採用をどのように考えているかを詳細に知る事が出来るという点で役に立つのではないか。

「ブリンやペイジの個人エピソードを知りたい」
「Google創業当時の逸話を知りたい」
という購買動機の人には余り向いていない。上に書いたように、どちらかというとローゼンバーグ視点のエピソードが多いからだ。
ただ、Googleに問題が起きた場合の社内での意見の割れ方や、どのように収束させていくかといった事は大いに示唆に富んでいる。

Googleの経営者層が書いた本ということで、堅苦しく難しい経営本ではないか、と却って構えてしまう人もいるかもしれないが、ジョーク(やブラックジョーク)、時には絵本のようなイラストなども交えながら息抜きもふんだんにあり読みやすい本だ。

なお、このブログエントリーは2016年12月現在のものだが、本は2014年刊行なので、内容としてもそれほど古いものにはなっていない。まだ十分リアルタイムの内容として読める時期だ。
ぜひこの機会に手に取って読んで頂ければと思う。

SPONSORED LINK

この記事をシェアする