「徹底検証!電王戦第1局研究会」で佐藤天彦名人が指し手を解説 完全可視化された名人vsPonanzaの全て

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2017年4月1日に行われた将棋電王戦のPonanza vs 佐藤天彦名人の戦いですが、結果は先手のPonanzaが71手で勝ちました。

通常、プロ棋士同士の場合は感想戦といって対局の内容を精査しどこに勝負のポイントがあったのか、詰み筋を見逃していなかったなどを仔細検討しますが、今回はソフトと棋士の対局ということでありませんでした。
ただ、それだと対局の内容が棋士以外には分からないということで、主催のドワンゴが感想戦の代わりに対局の内容について佐藤天彦名人ほか、サポート棋士の永瀬拓矢六段と将棋ソフトApery、浮かむ瀬の開発者平岡拓也氏に同席してもらって対局の内容を振り返る番組がありました。

徹底検証!電王戦第1局研究会

今回はこちらについて、将棋の観る将の方にも分かりやすいようテキストに書き起こしたので、掲載します。
プロ棋士、特に佐藤名人のようなトップ棋士がどのような考えでソフトとの戦いを行っていて、局面や差し手をどこまで考えているのか、明瞭に可視化、言語化されていて、非常に貴重な内容だと思います。

佐藤天彦名人、永瀬拓矢六段の詳細についてはこちら

【将棋】羽生善治・渡辺明・佐藤天彦・・・観る将が知っておきたいトップ棋士20人まとめ(2016-2017年版)

【電王戦関連サイト】


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Contents

永瀬六段が挙げた注目の局面

  1. 24手目:後手3六飛
  2. 42手目:後手7五歩
  3. 53手目:先手7四歩

初手3八金は想定内

図は▲初手3八金

【後手△】佐藤天彦名人
【先手▲】Ponanza

佐藤名人の解説

事前研究については、永瀬六段がPonanzaと指して佐藤名人に報告するという形で行っていた。
連絡はメールで連絡を取ったり実際に会って打ち合わせなどを行っていた。
(筆者註:ソフトと対戦が決定した場合、ソフトが貸し出されることになっている。
永瀬六段は今回、サポート棋士に付いているため、佐藤名人宅での操作か、またはリモートからかは分からないが、佐藤名人に貸し出されたPonanzaと対局してそのデータを佐藤名人に伝えていたと思われる。)

先手Ponanzaの初手は22手ランダムとなっている。

歩(8六歩以外全て):8手
飛車(5八、6八、7八):3手
右金(3八、4八、5八):3手
左金(7八):1手
右銀(3八、4八):2手
左銀(6八、7八):2手
玉(4八、5八、6八):3手
—————————–
合計:22手

これだと(後手が)良くなるという初手はないが、対策が進んでいたのは振り飛車の系統は22通りから派生する中では対策が進んでいた方。
振り飛車でもはっきり良くなるわけではないが比較的という感じ。 22手の中で▲3八金は最も難しくなる手と想定していた。
よく分からない手(一番嫌な手)は▲78銀。人間(との対局)では経験がないので。
人間にとってもよく分からない本譜のような相掛りの手が特に強敵と思っていた。
人間の定跡や感覚が応用出来る将棋の方が戦い易いと思っていた。
本譜のような展開は人間の将棋ではまだ出て来ない。

平岡拓也氏の解説

浮かむ瀬は定跡(ルーチン)を積んでいないが、探索で手を決めている。大体2六歩か7六歩等決まった手しか指さない。
やはり3八金だと浮かむ瀬では100点くらい損になるので損になる手は中々指さない。
練習で嵌められないとかそういうことを考えると必要な対策だったのかなと。

4手目までの金開きは「自然な進行」

図は4手△3二金まで

【後手△】佐藤天彦名人
【先手▲】Ponanza

佐藤名人の解説

▲3八金と▲7八金(通称「金開き」)は皆さんからすると凄い将棋に思えたかもしれないが、永瀬六段や我々からすると自然な進行ですね。
進めていくと結局、先手玉が5八の中住まいになるだけなので手順は前後するが同じ形になる。
プロの将棋では4九金、3八銀が多いが、それと似ているとは言わないが違和感があるほどではない。
やられて見るとこれも一局の将棋かなと思う。

17手目で研究から外れた2八飛

図は16手△73銀まで

【後手△】佐藤天彦名人
【先手▲】Ponanza

佐藤名人の解説

17手目▲2八飛は初のパターン。通常は▲2六飛だったので17手目以降で研究から外れた。

平岡拓也氏の解説

ソフトが探索の結果、ランダム性が含まれてくることがある。どこかでイレギュラーな手が出ることは不自然ではない。

24手目△3六飛は未知の局面

図は23手▲8七歩打まで

【後手△】佐藤天彦名人
【先手▲】Ponanza

佐藤名人の解説

24手(△3六飛)は事前にない未知の局面。歩を取らず飛車を引くとお互い手が難しい勝負になり、中盤が長くなりそうな気がした。
人間にとって評価がし辛くなると思えた。
△3六飛で歩をとることで方針が分かりやすくなり、局面を分かり易くし一歩得を主張にしようとした。具体的に手が発見出来ないのであれば3六飛は有力な手。
主張が食い違う方が今後方針が立て易いのかなと。(先手は手得、後手は駒得)

平岡拓也氏の解説

浮かむ瀬では3六飛以外に読んでいた有力な手は8筋の何れかに飛車を引く手。これでも30点くらいの差なので、ここは作戦をどう取るかという自由度があった局面。
CPUでも探索の度に一番いい手が変わるのでどれを取っても一局かなという印象。

永瀬六段の解説

3六飛は勝負に行った手だと思う。
自分であれば形を考えると8二に飛車引きが自然と思うが、Ponanza相手であれば一歩を欲しいという気もする。

36手目△34歩で角道を開ける

図は36手△34歩まで

【後手△】佐藤天彦名人
【先手▲】Ponanza

佐藤名人の解説

後手の方針としては、角を使うため3四歩で角道を空けたいが、そうすると先手から2四歩、3四歩と横歩を取られるため、後手の歩得の主張がなくなる上、先手の4六銀や3七桂などの好形だけが残るため、後手3四歩は慎重に行う必要がある、
実際には35手目の▲6八銀の瞬間に△3四歩と突いた。このとき▲2四歩△2四同歩▲2四同飛車ならば△8八角成と切る。
▲8八同金、△3三角打で、この時2四の飛と8八の金の両取りがかかるため、先手としても2四歩から動き辛い状況となっているため。

力を出せると思っていた昼食前までの局面

この後の進行
37手:▲2二角成
38手:△2二同銀
39手:▲6六歩

図は39手▲6六歩まで

【後手△】佐藤天彦名人
【先手▲】Ponanza

佐藤名人の解説

先手6六歩の意味はCPUが6七銀型にしたいため。6七の銀はCPUが好きな形。
CPUは8筋の防御を重視していない可能性がある。(この後、昼休憩となったが)局面は自分が力を出せる局面になったと思っていた。

平岡拓也氏の解説

CPUは矢倉にはほとんど組まない。7七には通常銀は行かない。組むのに時間がかかりその間に攻められるからだと思う。

42手目△7五歩で細い攻めに活路を見出す

この後の進行
40手:△8四飛
41手:▲6七銀
42手:△7五歩

図は42手△7五歩まで

【後手△】佐藤天彦名人
【先手▲】Ponanza

佐藤名人の解説

この辺りではどういう構想で行けばいいのか良く分からなくなっていた。
7二金のような持久戦だと陣形の差で不利になる。
6四の銀も中途半端な位置にいて先手6五歩や7七桂で追い返されてしまう。
(筆者註:次に先手6五歩で突かれると後手同銀、先手6五桂で銀が取られるため。)
長い展開(持久戦)は余り良くないと思った。そこで、細い攻めだが後手7五歩で攻めを行った。

△7五歩について永瀬六段の解説

7五歩は中盤の方針を決めたポイントの手。

佐藤名人の解説

構想的にはこの手くらいしかなかった。これ以外の手は全く別の構想になる。
6四の銀を追われ銀を7三に引くと、陣形の厚み、駒の働きが全く違う。
先手陣はまとまっているのに対し後手陣は玉を中心に左右で駒が分断されてしまい左右の駒の働きに関連性がない。
この形では1歩程度の駒得では必敗といっていい形。
そうなるくらいであれば自分から動いていくほうが局面的にも方針的にも分かりやすい。

平岡拓也氏の解説

7五歩の所では浮かむ瀬の代わりの手は4二玉や3三桂などの陣形整備を読んでいた。

「らしい」攻めの呼び込みを見せたPonanza

この後の進行
43手:▲7五同歩
44手:△9五歩
45手:▲9五同歩

図は45手▲9五同歩まで

【後手△】佐藤天彦名人
【先手▲】Ponanza

佐藤名人の解説

▲7五同歩の後はPonanzaの攻めの呼び込み方はCPUらしい。人間ならもう少し攻めを余そうとする。

75歩を同銀の一例(後手の攻めを先手が受けきれる)
43手:▲7五同歩
44手:△7五同銀
45手:▲7六歩
46手:△8六歩
47手:▲7五歩
48手:△8七歩成
49手:▲8五歩
50手:△8五同飛
51手:▲7六銀
52手:△8二飛

この形では飛車を8二に逃げるとと金が取られ後手銀損が確定。
いつでも後手銀を5段目に進出させる形にさせていながら、水面下の読みでカバーしているのが”らしい”。
(五段目の銀は攻めのセオリーなので通常は好形。)

先手は方針が確定、後手は悪形の金・銀

この後の進行
46手:△9七歩
47手:▲6五歩

図は47手▲6五歩まで

【後手△】佐藤天彦名人
【先手▲】Ponanza

佐藤名人の解説

これが気持ちのいいカウンター。同じく6五銀もあったがここで指すのが難しい。
47手目の6五歩のあたりでは先手は方針がはっきりしていて中央の戦いに勝てればいい形。
桂馬を7七に跳ねたり歩を6四に打って敵陣にキズを作る。
後手は差し回しが難しく2二銀・3二金の悪形。
中央でポイントが上がらないと遊んでいる駒がピックアップされてポイントが悪くなる。
たとえば5二の玉を4二に寄せると金銀の価値が高くなりポイントが上がる。
但しそのタイミングが非常に難しい。

平岡拓也氏の解説

6五同銀の後は浮かむ瀬の読みは以下の進行。

▲2九飛
△4二玉
▲9七香
△8五角打
▲5五角打
△6七角成
▲6七同玉
△6四銀打
▲7七角

これで評価値マイナス38点でほぼ互角。

9七香を指せるPonanzaの凄み

この後の進行
48手:△7三銀
49手:▲9七香

図は49手▲9七香まで

【後手△】佐藤天彦名人
【先手▲】Ponanza

佐藤名人の解説

7三銀は端攻めに全てを賭けた手。9七香は人間には指し辛い手。
(筆者註:9九の香車を動かすと)人間の感覚としては9八角打や9八歩の垂らしからの9九歩成が見えてしまう。(本譜は9八角打)
他にも9六歩、9六同香、8五角打の単純な香車取りも。
人間が読みの範囲でカバーするのは結構時間がかかる。
それが9七香が取り辛い理由。
もう一つは9七香の場面で代案に7七角打がある。これは9五香の走りを受ける手。
自分が気になる手が少なく気になる手を解決するのに時間がかかる。
仮に7七角のような手がない場合は他の候補手を読むが有力手があるならそれを最初に読む。
よって9七香のような手はプロ棋士では無意識には選び辛い手。
これを水面下の読みと正確な判断能力でケアして実際に指してくるのがPonanzaの強さ。

後手評価値マイナス300、劣勢に立たされる

この後の進行
50手:△9八角打
51手:▲2九飛

図は51手▲2九飛まで

【後手△】佐藤天彦名人
【先手▲】Ponanza

佐藤名人の解説

この後の進行が後手8七角成の場合
この局面(2九飛)も人間の感覚からすると怖い手が沢山ある。
例えば
△8七角成
▲8五歩打
△8五同飛車
▲7六角打(飛車、馬の両取り)
△7六同馬
▲7六同銀
△8二飛

8五の飛車を逃げると8五に歩を打たれて先手陣の厚みが好形になる。
(筆者註:8五歩で飛車の頭に蓋をされて後手の8筋からの飛車の攻めが無力化される。)

この後の進行が△7八角成の場合
△7八角成
▲8五角打
△6八金打
▲4八玉
△6七馬
▲6七同角
△6七同金

この時点で後手駒得にはなるが、後手から見ると嫌な手が幾つもある。
たとえば▲6四歩、△6四同歩、▲8五角で玉手金取りをかけられる。
後手64同銀なら▲8二銀で桂馬を受けるためには7二に銀を打たされてしまう。
この辺りの理由で▲8七角成は出来ない。

平岡拓也氏の解説

この時点の浮かむ瀬の評価値は後手マイナス300程度。
人間の300はいい勝負だがPonanzaに対しての300はかなり厳しい局面。
100点は探索の度にぶれる。300点差なら勝率6割以上。300点はかなりCPUはいいと思っている。

筆者註:Ponanza開発者の山本一成氏によると評価値300点で勝率6割、800点で8割との計算式を仮定して学習しているとのことで平岡氏の解説とも一致している。

ここしかないタイミングでの▲7四歩

この後の進行
52手:△8八歩
53手:▲7四歩

図は52手▲7四歩まで

【後手△】佐藤天彦名人
【先手▲】Ponanza

▲74歩は永瀬六段のポイントに挙げた手

永瀬六段の解説

▲7四歩は控え室の検討で挙がっていなかった手。
△7四同飛だと▲8八金で痺れるので後手は取ることが出来ない。
この瞬間▲7四歩と突くことで△7四同飛と取らせない絶妙な一着。

この後の進行
54手:△7四同銀
55手:▲7七桂
56手:△8九角成

図は56手△8九角成まで

【後手△】佐藤天彦名人
【先手▲】Ponanza

佐藤名人の解説

7四同銀で相手に一歩を渡してから7七に桂馬を跳ねるのは浮かばない発想。
▲74歩の場面では▲7七桂から△8九角成が読み筋だった。
この時点では後手がいいわけではないが先手の攻めに制約を与えている。
先手が歩を渡すと、△7六歩で先手の7七の桂馬に逃げ場所がなくなるため歩を渡しづらい局面。
つまり先手から歩を使い辛い局面ということと、先手から有効手が難しい。
角は6六や7六に打ちづらい。
ここで先手から後手に歩を渡して桂馬を跳ねるというのは盲点になっていた。

絶妙手の▲6六角打ちに勝負手の△8二飛で応酬

この後の進行
57手:▲6六角打
58手:△8二飛車

図は58手目△8二飛車まで

【後手△】佐藤天彦名人
【先手▲】Ponanza

佐藤名人の解説

△8二飛車引きは勝負手。
普通は△7五歩。(筆者註:6六の角が飛車に当たっているため防ぐ。)
この局面は先手が相当得している。

1.先手から歩を渡せる。
後手が7五に歩を打った場合、桂跳ねを咎めるため7六に歩を移動すると、角で8四の飛車が取られてしまうので歩を動かせない。
先手から見て6六の地点に角打することで△7六歩を間接的に消している。

2.▲7四歩、△7四同銀で銀が邪魔になるため、後手の8四の飛車の横利きが止まってしまっている。
先手からいつでも▲2四飛、△2三歩打、3四歩で横歩が取られる状態になっている。
そのため、8二に飛車が引くしかなかったが、ここからは完全にダメになっていた。
評価値も後手マイナス1000を超えてしまった。

平岡拓也氏の解説

浮かむ瀬の50手目の評価値はポイントが下がっているが、Ponanzaは右肩でずっと上がっているのは、浮かむ瀬が読めていない手をPonanzaが指しているということ。
Ponanzaはずっと上がっているので想定内の展開だったということが言える。

投了図以下の解説

この後の進行
59手:▲7五歩
60手:△7六歩
61手:▲7四歩
62手:△7七歩成
63手:▲7七同金
64手:△9八馬
65手:▲5五角
66手:△8四飛
67手:▲7五銀打
68手:△8三飛
69手:▲9一角成
70手:△8七馬
71手:▲5五馬

まで71手で先手の勝ち

投了図


【後手△】佐藤天彦名人
【先手▲】Ponanza

佐藤名人の解説

攻めがつながらない形。
△8九馬と△8八歩は先手の守り駒を硬直させることを狙っていた。
結果、桂馬は取れたが先手の金銀の位置が柔軟になった。
△8九の馬は目標を失ってしまい後手の攻めとしてはこれ以上難しい。
この後、△9八馬と香車を取りにいったが▲55角が厳しい。
△8四銀も▲7五銀と打たれて引かされた。

投了について。
駒割について、先手が銀香を取っていて後手は桂馬。
(筆者註:この時点で先手持ち駒は香1枚、歩4枚。後手持ち駒は桂1枚、歩1枚。
但し7五の銀は駒得した銀であるためそれもカウントしている。)
実質的には先手が銀得で代償がなければ決定的。
後手は銀損の8筋の飛車の成り込みを代償に求めていたがならなかった。

△7七馬、▲7七同馬のため87飛車成がならない。

△9七馬も▲8四歩、△9三飛、▲8六銀、△9六馬、▲9五香で飛車が受からない。

全体的にも2二銀、3二金は浮いていて、攻めをつなげる意図があったがつながらなかった。
右辺全体の働きは先手が上。

この点からも投了已む無しとした。

本稿の終わりに

以下、放送では対局以外の話題も取り上げられましたが、ここでは割愛させて頂きます。

棋士がどのように1手を考えているのか、元々解説が上手い佐藤名人ということもあり非常に可視化、言語化された内容で分かりやすいものでした。
そして名人の指し回しの更に上を行くPonanza。
将棋の伝統、棋士の読み、盤面の言語化、それら全てを持たないソフトのPonanzaが最も強いという奇妙な現実。
2番勝負のため次回は最終局となり、佐藤名人が先手番ですが、名人が一矢を報いるのか。
次回開催日は5月20日(土)。

第2期電王戦 二番勝負 第2局 佐藤天彦叡王 vs PONANZA

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