ドラマ『銀と金』の異色エピソード「殺人鬼・有賀研二」編の謎を考える

先日終了した福本伸行原作『銀と金』のドラマ版ですが、地上波(テレビ東京)とWEB配信がありましたが、自分はAmazonのプライムドラマのWEB配信版で見ました。

自分は福本作品の大半を読んでいるので原作の『銀と金』も読んでいます。
『銀と金』は闇のフィクサー・平井銀二が強運のフリーター・森田鉄雄を相棒に株の仕手戦や超高額の麻雀勝負、一族の血みどろの争いに巻き込まれるなど、様々な勝負やギャンブルに挑んでいくストーリーで、原作は未完ですが福本ファンの中では非常に人気が高い作品です。
自分も『天 天和通りの快男児』『アカギ 〜闇に降り立った天才〜』『賭博黙示録カイジ』『無頼伝 涯』『賭博覇王伝 零』等の中でも『アカギ』『カイジ』に並ぶくらい好きな作品が『銀と金』です。

原作(Kindle)

ドラマ版

銀と金
銀と金

posted with amazlet at 17.04.22
 

テレビ東京「銀と金」公式サイト

『銀と金』の中でも特異なエピソードが「殺人鬼・有賀研二」のエピソードです。
原作では第2巻第15話「巨悪は眠る!!」から第3巻第21話「修羅場からの生還!!」で登場します。
福本伸行作品の多くは、「嗜虐趣味等の異常なキャラクター」「特異な設定のギャンブル」「残虐な舞台装置」「心理描写と駆け引き」という要素が共通していますが、それに加え有賀のエピソードでは福本作品では数少ないアクションも描かれます。
ドラマ版では限定公開としてWEBだけに配信された13話が面白くて3回も見てしまいましたが、その13話が有賀のエピソードになっています。

13話の粗筋は「銀二にある仕事に送り込まれた森田。その仕事とは有賀という男を一晩、同じ部屋で見張りをするというものだった。有賀はただの男ではなく、関東一円で数人を生きたまま刻んだ異常者の連続殺人鬼だった・・・」というもの。
設定だけでも『世にも奇妙な物語』のエピソードやホラー映画になりそうなほどです。
一方で、13話の有賀編は不可解な状況設定から、見ていて様々な疑問が沸いてきます。
元々漫画等のシーンは実際はどうなっていたのかなどの裏設定やIFを考えるのが好きなので、今回も有賀編について疑問を解消するために考えてみました。
(記事本文中で『銀と金』のネタバレを含みます。)


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銀と金 有賀研二編 登場人物

平井銀二 銀王の異名を持つ裏社会のフィクサー。悪魔的に頭脳が切れ日本の闇の王になることを目論む。森田を自身の後継者と見込み仲間に引き込む。「有賀編」では森田を有賀の監視に送り込むが・・・。
森田鉄雄 ギャンブル中毒の若者。原作では21歳、ドラマでは25歳。相手の嘘を見抜く能力に長けるが銀二のように悪党になり切れない。銀二を超える「金」になることを目標に数々の大勝負に挑む。「有賀編」では銀二に持ちかけられ殺人鬼の監視をすることになる。
有賀研二 関東一円で7件の殺人を重ねたが組織に捕らえられた。生きたまま人間を切り刻む異常者の殺人鬼。
船田正志 東京地検特捜部に所属していたヤメケン(元検事)。銀二の手伝いや企業相手のブローカーをしている。ドラマでは森田を有賀の監視部屋に届ける運び屋の役目を担う。

原作とドラマ版の違い

本題に入る前に原作とドラマの違いを挙げておきます。微細な点を挙げると多過ぎるため主なものだけとなります。

  原作 ドラマ
目的 広瀬と銀二が森田の能力をテストするための試練 目的は不明。銀二は空の銃で対応するように忠告しているほどなので有賀の危険性を知っている。森田は銀二の最初のテストを「合格」した人間なので簡単に殺すわけにはいかないが、船田が組から受け取っているのは僅かな金額(札で10万程度)であり、億単位の金を動かす銀二からすれば金は理由にならない。
よって、なぜ銀二が危険な仕事を簡単に請けたのかは何らかの理由があるはずだが、ドラマ版では明らかにされない。
銀二 監視のローテーションに銀二も入っている 森田に依頼するだけで登場はしない
船田 船田は登場しない 森田を監視部屋に運ぶ
殺し屋 殺し屋は登場しない ドラマオリジナル要素
有事のために組織が雇った殺し屋
時間/場所/日数 日中?/マンションの一室(組の事務所?)/3日 夜19時頃/リフォーム工事中の家/一晩
有賀の犯行内容 昨年末から関東1都6県で女子供を中心に7人が殺された 昨年末から関東1都5県で女子供6人が殺された(通常「関東」といえば茨城・栃木・群馬・埼玉・千葉・東京都・神奈川の1都6県を指すため、1都5県というのは例外的な使用方法)
弾抜きの拳銃のアイデア 広瀬のアイデア 銀二のアイデア
有賀が侵入する窓 森田が隠れている間に有賀が外の様子を見たときに鍵を開けていた 最初から窓の鍵が開けられていたことに有賀が目を付けていた
森田の能力 弾が入っていない拳銃を見ても自分を奮い立たせる、銃を持っている有賀に逃げていいと言われて周囲の人間が逃げる中、制している 弾が入っていない拳銃を見て慌てて弾を探す、銃を持っている有賀に逃げていいと言われて逃げる素振りを見せるなど、原作よりも機転や豪胆さがない
森田のトリック 森田が死体を利用したトリックで隠れ、有賀に一撃を入れる 森田が死体を利用したトリックで隠れるが、殴りかかる前に有賀に気付かれる
二人が安全に刃物を置く方法 対峙する二人が刃物を安全に置く方法が有賀から示されて実行する 原作と同様の方法で刃物を置くが、持ち方が原作と異なる。原作:逆手で持ち刃は上側に向ける ドラマ:順手で持ち手首を上に返して刃は上側に向ける
有賀が拳銃入手後 監視者や建物の構造を確認するため部屋に入ってくるが森田に正体を気付かれる 異変を森田に気付かれ監視者の部屋に入ってくる
有賀の過去 原作では描写されない ドラマオリジナル要素
森田がスマホで有賀の情報をサイトで調べるシーンがある。その際「火災で一家全焼し一人生き残った過去」(有賀のトラウマとなっていること)や犯行動機がサイトの情報で示される。
有賀が火を恐れる 原作に設定なし ドラマオリジナル要素
「救急車のサイレンが鳴り有賀が怯える」「森田が手にした薪の炎を見て有賀が怖れる」等のシーンがある。
有賀との戦闘 銀二が格闘で有賀を押さえ込む 船田が銃を突きつけてナイフを取り上げ、肘打ちで気絶させる
その後の展開 銀二が森田を病院へ運ぶ 森田が死んだ一人ひとりの顔に打ち覆いの布を被せる。その様子を見て船田が「お前、何か変わったな」というシーンでエピソードが終わる。
有賀の台詞 「赤ちゃん」「希望によってネズミは死ぬ」「別タイプの男」などの台詞 ドラマ版ではカット

殺人鬼・有賀をどのようにして監視すべきだったか

なぜ有賀を監視することになったかというと、ドラマ版では恐らく時間の都合で多くは説明されず、銀二に話を持ちかけた「その筋の組織」が偶然有賀を捕らえたものの、直ぐに警察には引き渡さず、何かの交渉の材料に使うため、それまでに有賀を監視しておく必要が出たという設定になっている。

ドラマ版での説明

ドラマ版では監視に入る前にリーダーと帽子の男から、船田と森田に対して説明がされる。

現場のリーダー「2階の奥にある男を監禁している。上からの連絡待ちだが、明日まで監視するのが俺たちの仕事だ。」
帽子の男「ただその男ってのが問題でな。昨年末から関東1都5県で女子供6人が殺された事件の犯人・有賀研二だ。」
船田「有賀?警察が追ってるあの殺人鬼の。」
帽子の男「ああ。被害者が生きている間に肉体を切断していたっていう異常者だ。」
船田「で、そんな男がなぜここに。」
現場のリーダー「ひょんなことからウチの組の手にかかってな。上は有賀をネタに警察と取引をする気だ。で、あんたに頼みたいのがその見張り。」
森田「見張り?」
現場のリーダー「そう。部屋の中で1対1。有賀が怪しい動きをしないように見張る役目だ。安心しろ。部屋の中では確かに1対1だが外には常に4人いる。それに見張りも1時間交替。銃も渡しとく。まあ、そんな大げさに考えるような仕事じゃない。」
帽子の男「大丈夫だ。兄貴と俺、お前、中にいる相沢で四交代制。見張りといってもそんなに長い時間じゃねえや」

原作での説明

原作ではより詳細な説明がされており、有賀をどのように扱うかについて組織の考えや銀二の考えが描写されている。

現場のリーダーが森田に話した台詞
「最初はふんじばっちまえばいいんだから簡単だと思ったんだが………」
「大事な取引の道具だからと本家にそれはとめられちまった………」
「今はただ部屋に閉じ込めてる 見張りを一人つけてな………」
(『銀と金』第2巻より引用)

組織の幹部が銀二に話した台詞
「本当は数人でチャカを突きつけるのが一番なんでしょうけど……」
「それをするとちょっとしたアクシデントで若い奴ら「有賀」を撃ち殺しかねませんからね」
「大事な取引道具にそれは出来ない」
「結局丸腰で取り囲む以外ない」
「最初は二人で組ませてやってたんですが………」
「人数の関係で入れ替り立ち替りになりあまり休みがとれんのですわ」
「そのことをこちらの広瀬さんに相談したらカラの拳銃で脅せばいいといわれてね」
「こちらの手にあるうちは無言の圧力で「有賀」を押さえるだろうし……」
「もし奪われるようなことがあっても安全……その拳銃で人が死ぬことはない……!」
「このアイデアのおかげでだいぶ助かりましたよ これなら有賀を一人で制圧できる」
(『銀と金』第2巻より引用)

平井銀二の台詞
「そうかな……オレは二日や三日寝なくたって………あの怪物には二人で当たるべきだと思うがね」
「ただし……素手で見張るというのは賛成」
(『銀と金』第2巻より引用)

監視は複数でローテーションするため頭数が必要であり、銀二に話が入り森田が派遣されることになる。
ドラマでは組織のリーダー格の男、二人の部下、そして森田の計4人が監視に入ることになる。
また、有事の際の保険として、プロの殺し屋が雇われ、同じ部屋に常時待機している。

有賀を監視する仕様

組織が有賀を監視する仕様としては以下のようなものだった。

  1. 監視対象と部屋の中で1対1で一晩監視する。
  2. 監視は1時間で4交代する。
  3. 監視する部屋は別室(2階)にある。監視者以外は1階で待機している。
  4. 監視者はナイフ・銃で武装しているが戦いは素人。
  5. 有事のために本職(殺し屋)が待機している。本職は監視は行わない。

まず監視する対象がいたとして、監視対象と部屋の中で1対1で監視するというのはどうなのか。
非武装の相手を監視するのに通常は大の男が1対1でも十分だ。
非武装同士の人間が戦って相手を死に至らしめるのはまず不可能だし、いざとなれば仲間がいる場所まで逃げ出せばいい。
しかしここで、監視者たちはナイフや銃といった武器を携行して監視している。それは相手が殺人鬼の有賀ということで武装しているのだが、それを有賀に利用されて次々に殺され武器を奪われてしまう。
銀二は銃の弾を抜いておくようにと忠告するが、監視者たちはそれを守らず奪われた銃で殺されてしまう。

そもそも、施錠した部屋の中で1対1で対面監視するというのも異常だ。
軟禁しておくなら施錠した部屋から出さないだけで十分だ。
設定が現代なので、カメラなどを付けて外部から監視すればいい。
しかしそうしないのは、組織の人間にも依頼されたのが急な状況で、周りに気付かれないリフォーム中の家を手配してそこで見張れと言われただけかもしれない。
(原作ではマンションの一室だが、防音処置が施された部屋ということになっている。)
時間があればもっとましな監視の状況を作れただろう。

1対1で監視しているため、監視者が殺されても別室には気付かれず有賀は武器を奪いながら優位な状況を築いてしまう。
もし同じ条件で監視するなら、2対1で仮に武器を奪われても一人が助けを呼びに行けるなどの状況で監視するべきだったのではないか。

そもそも、何故監視する必要があったのかどうかということもある。
それについては、組織は有賀を無傷のまま警察に渡したかったのではないか。
もし有賀が自殺を図ったりすると交渉が破綻しかねない。そこで有賀が妙な動きをしないよう、常時監視者を付けるということになったのかもしれない。

そして武器を携行するにしても、ナイフや銃といった殺傷能力が高い武器を持っていたことで有賀に簡単に奪われ逆襲されてしまうことも問題になっている。
通常、防犯対策の武器としては、「刺股(さすまた)」「催涙スプレー」「スタンガン」「護身棒」等が考えられる。

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刺股は先端がU字型の金具になった相手を封じ込める捕具で、江戸時代から捕り物等に使われているらしい。殺傷力はないがナイフ等を持っている相手には距離を取りながら服に引っ掛けて倒したり相手を押し付けて動きを封じるなど、素人でも凶器を持った相手に十分に対抗することが出来る。
小学校に侵入され死傷者が出た事件があったが、それ以来小学校などでも防犯対策、侵入者対策として「刺股(さすまた)」「催涙スプレー」等が常備されるようになったと聞く。

催涙スプレーは防犯グッズを扱う店や通信販売でも入手可能で大きさはライターから消火器ほどのものまでもある。
OCガスが主成分で薬物中毒者や泥酔状態の相手にも一定の効果がある。
噴射を受けると咳と鼻水が止まらなくなり、数10分はまともに行動出来なくなる。
ゴーグルやヘルメットを被っていても大気中にエアロゾルが漂うため首やヘルメットベンチレーターに当てても効果がある。
噴射を当てれば素人でも暴漢相手に有効な武器となる。
但し日本では催涙スプレーが法的に厳しく取り締まられているため、使用には注意が必要だ。

ちょっと大げさだが護身棒やスタンガン、ライオットシールド等も凶器を持った相手の攻撃を封じるのに役立つだろう。

つまりナイフや銃等の殺傷能力の高い、奪われると一瞬で死傷者が出る武器は使わず、刺股や催涙スプレー等の殺傷能力の低い防犯グッズを携行していれば、仮に有賀に武器を奪われても死傷者が出ることなく済んでいた。

本サイトの結論としては、「監視者に刺股や催涙スプレー等殺傷力の低い防犯グッズを持たせて、2対1で監視させれば惨劇を防げていた」ということになります。
ドラマ版を見て改めて原作を見ると、ほとんど明快に説明がされていて、銀二自身も「2対1で素手で監視させろ」と言っていて納得しました。
時間の都合とはいえ、ドラマ版はかなり説明を省いているため、原作未読の場合は疑問になる点が多いと思います。

ドラマ版『銀と金』について

ドラマ全般についても少し触れておきたいと思います。
ドラマのキャストについては以下のようになっています。

  • 池松壮亮 さん(森田鉄雄役)
  • リリー・フランキー さん(平井銀二役)
  • マキタスポーツ さん(安田巌役)
  • 村上淳 さん(船田正志役)
  • 臼田あさ美 さん(巽京子役)

池松壮亮さんについてはこれまで全く知りませんでしたが、熱量を感じる役者さんだと思いました。
原作の森田は体格が大きく、最初からポニーテイルだったこともあり、比較的小柄の池松さんとは違和感がありましたが、ドラマ版の森田も良かったと思います。(ドラマ版もセザンヌ編の途中からポニーテイルになります。)

リリー・フランキーさんはこの中では一番知名度が高いと思いますがこれまで自分は映画や著作は見たことがなかったのでこれが初見ということになります。
平井銀二の配役は『銀と金』でも作品の良し悪しを決める最も根幹の部分だと思いますが、原作のイメージを壊さない程度にリリー・フランキーさんが好演をしていたと思います。
が、原作の銀二と比べるとやはり線が細い感が否めませんでした。

村上さんも初見でしたが、森田のピンチに登場するお助けキャラの演出が多く、森田のアニキという感で良かったと思います。13話の有賀編でも重要な役目を果たします。
この中では存在感を感じて一番好きな役者さんです。

マキタスポーツさんはオフィス北野所属のマルチタレントだそうです。原作の安田とはイメージが違いますがいい意味で詐欺師っぽさみたいなものが出てドラマ版も良かったと思います。

臼田さんも初見です。原作の巽有三をドラマ版では女性にしたキャラクター巽京子役で、ショートカットの妖艶な美女で非常に美しく印象的な女優さんです。

全体としてこのチームが銀と金というよりルパン三世っぽいチームだと思って見ていました。
フィクサーの銀二、一癖ある実力者の安田と船田、謎の美女の巽、成長枠の森田という感じでいいチームでしたね。
ドラマの敵役もセザンヌ編の佐野史郎さんや麻雀編の柄本明さんなど個性派が出演していました。

ドラマはシーズン1ということですが、原作はまだ「神威家編」や「300億サシ競馬編」が残っているため、シーズン2を期待したいドラマです。

なお、ドラマ版小ネタとして、有賀の説明をする際、帽子を被った男が『銀と金』の2巻コミックを読んでいます。(有賀のエピソードが登場する巻です。)

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